日々と罅

東京にいるよ。

ダンス・ダンス・ダンス(上)

彼女は時計を見て立ち上がった。「有り難う」と彼女は言った。そして来た時と同じように音もなくするりと外に出ていった。それがその日の唯一の取り柄だった。ささやかなことだ。でも古代エジプト人だって、日々のささやかな出来事に喜びを見出しつつささやかな人生を送って、そして死んでいったのだろう。水泳を習ったり、ミイラを作ったりしながら、そういうものの集積を人は文明と呼ぶのだ。